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高知地方裁判所 平成9年(ワ)6号 判決 1998年9月28日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求

(一) 原告と被告土佐観光施設株式会社との間において、原告が高知ゴルフ倶楽部個人正会員たる地位を有することを確認する。

(二) 訴訟費用は被告土佐観光施設株式会社の負担とする。

2  予備的請求

(一) 原告と被告高知ゴルフ倶楽部との間において、原告が高知ゴルフ倶楽部個人正会員たることを確認する。

(二) 訴訟費用は被告高知ゴルフ倶楽部の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告土佐観光施設株式会社(以下「被告会社」という。)は、ゴルフ場並びにこれに付帯する設備の建設及び利用等を目的とする会社である。

2  被告高知ゴルフ倶楽部(以下「被告倶楽部」という。)は、被告会社に付属し、被告会社のゴルフ業務を代行し、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図ることを目的とする団体である。

被告倶楽部は、昭和51年12月末日までは権利能力なき社団であったが、同52年1月1日をもって社団性を喪失した。

3  原告は、昭和37年12月14日ごろ、被告倶楽部に対し入会を申し込み、被告倶楽部から入会の承認を得て、被告倶楽部に対する個人正会員権(以下「本件会員権」という。)を取得した。

4  被告倶楽部は、被告会社に対し、昭和52年1月10日、それまで被告倶楽部がその会員に対して有していたすべての権利義務の主体たる地位を譲渡した。

被告倶楽部の各会員は、そのころ、被告らに対し右譲渡を黙示的に承諾した。

5  ところが、被告らは、原告が本件会員権を有することを争っている。

6  よって、原告は、主位的に被告会社に対し、予備的に被告倶楽部に対し、原告が本件会員権を有することの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は認める。

2  請求の原因2のうち、被告倶楽部が被告会社に付属し、被告会社のゴルフ業務を代行し、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図ること目的とする団体であること、被告倶楽部が少なくとも昭和51年12月末日まで権利能力なき社団であったことは認め、被告クラブが昭和52年1月1日をもって社団性を喪失したことは否認する。被告倶楽部は、設立以来、現在まで能力なき社団である。

3  請求の原因3は認める。

4  請求の原因4は否認する。

5  請求の原因5は認める。原告は現在も被告会社の株式2株を有する株主であり、かつて本件会員権を有していたことは認めるが、抗弁記載のとおり、原告は昭和38年6月1日をもって同会員権を喪失した。

三  抗弁

1  被告倶楽部は、昭和38年3月26日、会員総会を開催した。

当時、被告倶楽部の規約には、被告倶楽部の個人正会員の要件の一つとして、被告会社の株式を2株以上保有すべき旨の規定があったが、右総会は同規定を改正して、右要件の株式保有数を「2株以上」から「3株以上」とし、かつ、これを既存の会員にも適用して、右要件を満たさない既存会員はその地位(本件会員権)を失う旨定め、右改正規定を昭和38年6月1日から施行する旨決議した。

右改正規定は、右決議のとおり、昭和38年6月1日から施行された。

2  被告倶楽部の会員総会は、右当時、右決議を行う権能を有していた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。右改正規定に遡及効はなく、右決議より前に被告倶楽部の会員になった原告に対しては、同規定は適用されない。

2  抗弁2は否認する。会員総会といえども、憲法の保障する財産権である本件会員権を奪うような決議をする権能は持たない。

第三  証拠は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1の事実、請求の原因2のうち、被告倶楽部が被告会社に付属し、被告会社のゴルフ業務を代行し、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図ることを目的とする団体であること、被告倶楽部が少なくとも昭和51年12月末日まで権利能力なき社団であった点、請求の原因3及び5の各事実については、当事者間に争いはない。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  <証拠略>、弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

被告倶楽部は昭和32年に創立されたゴルフクラブであり、高知県内では最初の、四国では2番目に古いゴルフクラブである。被告会社も同年に設立され、被告倶楽部のために、ゴルフ場及び付属施設の建設、維持等を行ってきた(被告会社は被告倶楽部の運営に関すること以外の営業を行ったことはない。)。

原告は、被告会社に対し、昭和37年12月、被告会社の新株2株の引受けを申し込んで、その割当てを受け、払込期日までに右新株発行価額全額(合計10万円)を払い込んで、右新株2株を取得した。また、そのころ、原告は、被告倶楽部に対し入会を申し込み、被告倶楽部から入会の承認を得て、本件会員権を取得した。当時、被告倶楽部の規約においては、個人正会員は被告会社の株式2株以上を有すべき旨定められていた。

昭和37、8年当時、被告クラブは代表者の定めを有し、議決機関として会員総会を持ち、被告会社所有のゴルフ場の賃借権を始めとする財産を有して、それを管理し、従業員を雇用して、ゴルフ場を運営していたもので、会員の変動にかかわらず同一性を保つ権利能力なき社団であった。当時、我が国では、ゴルフをする人はいまだ少なく(昭和40年代半ばから増加してきた。)、被告倶楽部の会員も、投資目的ではなく、実際にゴルフのプレーをするために会員になった人々が中心であった。

ところで、右当時、被告クラブのコースは9コースしかなく(普通は18コース)、また、クラブハウスなど付属施設も不備であったので、会員の中でコース増設やクラブハウス増改築等をしようという希望が強くなったが、そのための費用は被告倶楽部の会費の値上げ程度では調達しきれないので、結局、被告会社の新株発行により調達することとなった(同目的のため、既に昭和33年10月、昭和37年12月に増資している。)。ところが、右のとおり、当時はゴルフをする人の数が少なかったため、一般人のゴルフ会員権に対する関心も薄く、右新株の引受人の一般公募を行っても、失権株が出るおそれが大きかった。

そこで、被告会社は右一般公募はせず、在来の株主による新株引受けを期待し、被告倶楽部としてはコース増設やクラブハウス増改築等の費用は在来の会員の負担(右新株引受)でまかなわざるを得ないと考えて、昭和38年3月26日、会員総会を開催し、被告倶楽部の規約中の、個人正会員は被告会社の株式を2株以上保有すべき旨の規定を改正して(以下「本件改正」という。)、右株式保有数を「2株以上」から「3株以上」とする旨、右改正規定を昭和38年6月1日から施行する旨決議したのである。同改正規定は、原告のように本件改正より前から被告倶楽部の会員であった者にも適用されるものであった。

右改正規定は、右決議のとおり、昭和38年6月1日から施行され、これによって、同日限り、原告は本件会員権を喪失した(しかし、もちろん、原告が昭和37年12月に取得した被告会社の株式2株は、現在なお原告の所有に属する。)。その後、被告倶楽部では本件改正と同様の規約改正が行われ、個人正会員の保有すべき被告会社の株式数は、昭和40年12月に4株以上、昭和41年9月に6株以上、昭和44年5月に8株以上と定められて、現在に至っている。

2(一)  ところで、本件改正は、実質的には、在来の会員をして被告倶楽部の施設拡充の費用を負担させること(新株引受)を目的とし、これを負担しない者に対しては、以後、被告倶楽部の施設の利用を拒むという手段をもって、右負担をするように心理強制を加えるものであったということができる。

一方、本件改正規定によれば、右費用を負担しない者(すなわち新株を引き受けない者)も、将来において被告会社の株式を3株(その後の改正により現在では8株)有するに至れば、右利用権(個人正会員権)を再び得ることができる。したがって、原告の有する2株の株式の価値は、右改正によって失われたわけではなく、他の株と併せれば、被告倶楽部の個人正会員権を取得して、被告倶楽部の施設を利用することができる権利としての価値を保っているということができる。

そして、昭和38年当時、被告会社の新株の一般公募は困難であり、他に被告倶楽部の施設拡充の費用調達のため適切な手段がなかったことに照らせば、被告倶楽部は権利能力なき社団として、多数決により、右のような施設拡充、そのための費用負担の割当て、これを負担しない者に対する施設利用停止による心理強制を定める権能を有したというべきである。

(二)  もっとも、本件改正前は2株のみで右会員権を得ることができたのに、同改正後はもう1株と併せなければ右会員権を得ることができなくなったという不利益が生じたということはできるが、これは被告倶楽部の施設拡充、これによる被告倶楽部の施設利用権(会員権)の価値上昇と表裏一体をなすものというべきである。言い換えれば、一般公募による新株引受が見込めない状況においては、原告の主張するごとく本件改正規定が既存会員には適用されないとするならば、その者は被告倶楽部の施設拡充のための資金を提供しないまま、他の会員らによる資金提供(新株引受)によって改善された施設でプレーすることができ、また、施設拡充による被告倶楽部の会員権の価格上昇による恩恵に浴することになる。

社団内部においてこのような不均衡を認めるか、それとも本件改正を行うか、さらには、そのような問題を惹起することが予想される施設拡充をそもそも行うか否かの決定は、社団の自治にゆだねられるべき問題であり、会員総会において決議されるべき事項である。

ところで、原告は甲第16号証によって、右当時、既に一般公募により新株引受をはかることは可能であったとする。しかし、<証拠略>において被告倶楽部の全プレー数に占めるビジターの割合を比較すると、昭和38年当時のビジターの割合は小さく、会員以外の者のゴルフに対する関心が薄かったことがうかがえる。また、昭和40年代半ば以降も被告会社の新株発行は行われているのに(<証拠略>)、本件改正同様の会員資格要件としての株式保有数に関する被告倶楽部の規約改正は、我が国におけるゴルフ人口が増加してきた昭和40年代半ば以降行われていないことにかんがみれば、昭和38年当時は一般公募により被告会社の新株引受をはかることは困難であったという前記認定を覆すことができず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

3  右のとおり、本件改正規定は同改正より前に会員になったものにも適用されるものとして会員総会により決議されたものであり、同総会には同決議を行う権能があったと認めることができる。そして、右改正規定が昭和38年6月1日から施行された結果、同日をもって原告の本件会員権は消滅した。

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の主位的請求は理由がない(実は予備的請求についても同様であるが、予備的請求については、左記三のとおり、被告倶楽部の権利能力の有無の判断を先に行う。)。

三  そこで、予備的請求の判断をする前に、被告倶楽部が権利能力なき社団であるか否か、すなわち民事訴訟法29条に基づく当事者能力を有するか否かについて判断する。

乙第23号証によれば、被告倶楽部は被告会社に対し、昭和52年1月1日をもって、それまで被告倶楽部が行っていたゴルフ場営業を譲渡したことが認められる。しかし、それ以後も、被告倶楽部は会員総会を有し、理事会が会員資格の得喪を審査している。また、被告倶楽部は、会員の入会金及び年会費を被告倶楽部の名で徴収し、被告倶楽部理事長名義の預金通帳も有している(<証拠略>)。

右の事実によれば、被告倶楽部は、現在なお社団性を有し、権利能力なき社団であるというべきである。そして、右二のとおり、抗弁事実が認められるので、その余の点に判断するまでもなく、原告の予備的請求は理由がない。

四  以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤美枝子)

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